ゆりすときのこ

まいにち楽しい。

議論のお作法入門(02) 築き上げる為の議論

あえて言い切りたいと思います。

議論とは勝つためのものではありません。議論とは築き上げるためのものです。より高みに登るための共同作業です。でも人間とは面白いもので真剣に取り組むためには何かしらの「しるし」が必要なみたいです。走り高跳びでは、バーがないとあの高さは飛べないと聞きます。議論も同じです。きちんと議論するためにはバーが必要なのです。それが勝ち負けです。手段としての勝ち負けです。

勝つだけなら簡単です。包丁を持って相手に向かってぐさっと一刺しすれば良いのです。相手は死んで僕は勝ちます。もうすこし現実的に言えば、相手の人格を攻撃して侮蔑すればよいのです。キモい、みんなお前のこと嫌いだよ、口が臭いから黙って、等々。

反論ができない仕組みになっている主張も同じくらい暴力的です。例えばこんなものです:普通じゃない、みんなそうは思っていない、お前も大人になれば分かる。大人にならなければわからないのだから反論のしようがありません。それはその主張が正しいからではなく主張のしくみ・構造の問題です。反論ができない主張は議論にならないので築き上げるための議論にはなりません。

正しい議論の方法とはどんなものでしょうか。

まず、自分の言いたいこと(主張)には必ず「なぜならば〜」(理由)をつけます。相手も同じことをします。この理由同士を闘わせるのです。議論のゴングがなります。議論が開始されたら、まず、相手の主張を先に考えます。自分の主張を先に考えてはいけません。準備なくして勝ち目はありません。まず相手の主張の意味、正しい範囲、相手の主張を支える理由の正しさを徹底的に考えます。これを相手任せにしてはいけません。相手が言っていないことであっても、相手の主張の理由が正しい可能性を徹底的に考えるのです。その過程でぐぬぬ…となったら儲けものです。昨日まで正しい可能性があるとすら思っていなかった新たな主張を手に入れたのです。喜びましょう。

相手の主張にどうしてもだめなところ、論理の綻びとか理由の弱さを見つけたら攻撃開始です。叩き叩き叩きまくります。相手の主張を殺すつもりで叩きます。ここで大事なことがあります。相手の主張だけを叩くのです。相手を叩いてはいけません。でも時として人は間違えます。間違って相手を叩いてしまったらすぐに訂正して謝ります。

相手も同じように主張を叩きます。叩かれたら徹底的に防御します。でも、ここでおや…?と思うことがあったら休戦します。相手の反論の意味を考えて本当に相手の反論が通らないかを確認します。自分の主張の理由を補強のために修正する絶好のチャンスかもしれません。おや…?を見逃さないようにしましょう。忘れてはいけません。勝つのは手段であって目的ではありません。議論とは高みを目指す共同作業です。

それを続けると、どちらかの主張に綻びが見つかるかもしれません。そうしたら終戦です。とりあえずは"差し当たりの"より正しい主張が決まります。どちらの主張にも綻びが見つからず、当てはまる場面が違うだけだということが分かるかもしれません。結構よくあるのが、実は二人の主張は同じことを別の言い方で言っていただけということです。いずれにせよあなたも相手も議論をする前より高みにいます。昨日知らなかった見方を手に入れたのです。

時間があれば議論の相手と酒を酌み交わし健闘を称え今日の議論の成果を喜びあいましょう。

これが築き上げる議論の正しい作法です。

次回は、議論と価値観の関係について考えます。